グリモワール 1
2007/12/24 Mon
消えてなくなりたい。
星どころか月影さえも見えない、暗く冷たい夜。
不思議な色の髪を揺らしながら、ぽつん、とひとつ、
それは虚ろに、つぶやいた。
※
起こしてはならないといわれていたものを、起こしてしまった。
意図してのことではない。うっかりと、という言葉がこの場合には当てはまるのだろう。
それがそんな形状をしているとは、毛ほども思ってはいなかったのだ。
そのため稼ぎ屋のJは、じっとりと据わらせた目で目のまえのそれを眺め、
「付き合っていられるかよ」
とつぶやいた。
教会から提示された報酬は、確かに高額ではあった。このゴミ溜めのような町でまともな食事と寝床を確保しておくためには、喉から手が出るほど欲しい額だ。
だがこうなってくると、ただ、悪趣味だ、と思う。
するとそれは、右目だけの金の瞳でこちらを見据え、
「なにに付き合っていられないの」
と小首を傾げた。
そのしなに、さら、と光沢ある鮮やかな赤紫色の長い髪が、白く細い肩を流れる。
それを見たJは深々と溜息をついた。そのついでにうんざりと瞳も逸らす。
髪と瞳の色は別にしても、それは人間の女にしか見えなかった。それも、なめらかな白い肌とやわらかな曲線を描く身体を持った、その顔の半分が包帯で隠されていてもなお、これまでに見たことがないと思えるほどの美女だ。
廃墟の地下。
教会からの依頼でとある物を探しにやってきたJが見つけたものが、埃に厚く覆われた棺。
中身が入っているのだとしても、いつのものだか知れないほどに古い骨だろう、とそう思っていたのだ。
ところがその棺に入っていたのは、瑞々しい女の死体だった。
まるで眠っているかのようであったので、思わず軽く頬を叩き、死んでいるのか、などと声をかけてみたのだ。
それがぱっちりと瞳を開いたときは、正直、驚いた。
そしてそれがJの探しているものだと名乗ると、大いに呆れた。
女がその美しい顔にうっすらと笑みを浮かべて名乗った名が、これだ。
魔道書『死者の舞踏』。
悪趣味にも、ほどがある。


