ダンス・マカーブル 1
2008/01/14 Mon
月はない。
星も、見えはしない。
闇だ。
深くて濃い、闇の袋小路。
先刻からつづくあたりを憚(はばか)ることのない甲高い嬌声が、気だるい熱に闇を揺らしている。
つかの間の悦楽を貪欲なまでにむさぼる女は、名も知らない男の背にきつく爪を立てつつ、血を啜(すす)ったかのように赤いくちびるからうわ言を放った。
「あぁ、おねがい……もっと、乱暴にしてちょうだい……っ」
それに、にこ、と清らかに見える微笑みを、整った顔に男が浮かべる。
「望みどおりに、してあげよう」
けれど意識をなかば飛ばした女は、気付かない。
男の瞳が、この町をときおり覆う汚れた霜よりも、ずっと冷たいことを。
ふぅ、と男は女の耳もとに、なにかを囁(ささや)きかける。
けれど揺さ振る熱に震える女は、気付かない。
それが甘く蕩(とろ)ける睦言(むつごと)などではなく、暗く残忍な呪詛であることを。
そして、
嬌声は唐突に、悲鳴へと変わる。
長く、長く尾を引いていた悲鳴は、しかし、不意にぷつりと途絶え、かわりに闇を支配するのが、
骨が砕かれ、肉が拉(ひし)げる、音。
吐き気をもよおすほどに熱くて甘い、血の臭い。
暗くて冷たい、闇の底。
熱く濡れた頬を歪めて、男は嗤(わら)う。
「踊れ、踊れ。世界が朽ち果てるまで」
その男、異端につき……


